ペイントで変わりはじめる、私の暮らし

コラム

09.劣化するということ

09.色から暮らしを考える 〜劣化するということ

撮影:Kenta Hasegawa

色は時間が経つと劣化していくものです。でもそこにこそ塗装の良さがあるとも言えます。塗装には時間が埋めこまれています。流れてきた時間を読み取る事ができるのが塗装の魅力です。この写真は椅子の足の一部です。一体どのくらいの時間がたったのでしょうか。どこでどんな風に置かれてきたのでしょうか。この椅子を持ち続けた人がいるならば、その思い出にひたり、もし巡り巡って人から人に旅してきたのなら、その歴史に想いを巡らしてみるだけで楽しくなります。どんな人が腰掛けて、どんな家に置かれ、今自分の目の前にいるのだろうと。

こうした椅子を、もう一度きれいに直すのもいいでしょうができればその痕跡を残しながら少しの修理ができればなお楽しいでしょう。20世紀のデザインにおいて、私たちが見失ってきた物は「時間と自然と歴史」だと言った人がいます。たしかに、それまでの歴史を否定し、自然から乖離し、そしてなにより劣化しない素材を開発しつづけてきたのです。塗料の良さはまさにこの時間を感じさせてくれる事なのです。塗った時から、時間がその劣化によって刻み込まれていくのです。

私たち日本人の美意識の中にこの移ろいというのがあるように思います、形ある物は壊れ、いつかは朽ちていくもの。壊れてなくなっていくもの。そこに「はかなさ」のもつ美しさがあるのだとも。地震の多い日本、木で家をつくる日本、ここには永遠のものを追求するのでなく、いつかは朽ちてなくなっていくものへの日本人のもつ美意識があるのです。色を塗るということはそうした身体の中にある美意識を触発する行為なのかもしれません。
暮らしの中に、古い物を置いてみる。時間の経過したものを置いてみる。あえて時間の痕跡がわかるものを置いてみる。その時に湧き出る感情を楽しんでみるのもいいものだと、この椅子を見ながら感じました。

みなさんは、こうしたはげた塗装、どのように思いますか。そしてみなさんの家にはこうした古いもの、たとえ名のない物でも、時間を蓄積した家具、おもちでしょうか。みなさんのご意見をお寄せください。