ペイントで変わりはじめる、私の暮らし

カラートーク vol.09 テキスタイルアーティスト 染色作家 古屋絵菜さん

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vol.09

テキスタイルアーティスト
染色作家

古屋絵菜さん
Ena Furuya

「色」を専門的に扱うクリエイターの方々の、「色」に対する考え方やこだわり、実践しているアイデアをご紹介するインタビューコーナーCOLOR TALK。 もっと自由に楽しく「色」を扱うためのヒントが満載です。
Vol.9は、NHK大河ドラマのオープニングタイトルバックに作品が起用されるなど、日本と上海を中心にご活躍中の染色作家(テキスタイルアーティスト)の古屋絵菜さんにお話を伺いました。

3年前から故郷の山梨に戻って活動されている古屋さん。アトリエは、山に囲まれた自然豊かな場所にあり、とても気持ちが穏やかになるような雰囲気を感じました。まずは、自己紹介とあわせてお仕事内容のご紹介をしていただきました。

古屋さん:
染色作家、テキスタイルアーティストの古屋絵菜です。
現在は、故郷の山梨県の甲州市で制作しています。3年前、10年ぶりに山梨に帰ってきました。
故郷は今でこそ“町”になりましたが、10年前はまだ“村”でした。山に囲まれたとっても田舎です。
私は自然物をモチーフにしていますので、自然あふれる場所に身を置いて制作できるので、とても良い環境です。
この山梨のアトリエで作品制作をして、主に、山梨、東京、上海で、作品展示会を行ったりしています。

染色というと、液体に布を浸け、絵柄が浮き出るの様子を想像してしまうのですが、古屋さんの作品は染色というイメージを越えた作品だと感じます。染色の方法について教えていただけますか。

古屋さん:
私は、染色のなかでも、主に“臈纈(ろうけつ)染め”という技法を用いて、絵画作品を制作しています。
一般的に染めると言うと、布全体をじゃぼじゃぼ染料液に浸けて染色するというイメージだと思いますが、
私は部分的に染めていく技法のため、筆や刷毛を使って、絵を描く感覚に近いかたちで染色しています。
簡単に行程を説明すると、まずはじめに、筆などで溶かした蝋を布に塗り、模様を描きます。
次に、染料にてその布を染色し、蝋を落として水洗いします。すると、蝋を塗った部分は白く染め抜かれるのです。
複数の染色のためには、蝋を塗り、染色するという工程を繰り返し、仕上げていきます。
臈纈染めの歴史は古く、日本では天平時代に中国から日本に入ってきたと言われています。
奈良時代に一度途絶えてしまいましたが、明治に復活し主に着物の染色技法として普及しました。
現在は、着物の需要減少により作り手も減ってきています。

予想以上に地道な作業を繰り返し、そこに繊細な技があわさってはじめて、古屋さんの作品がうまれることに驚きました。
作品づくりをされる中で、臈纈染めならではのエピソードがあれば教えてください。

古屋さん:
染色は工芸のひとつでもあるので、いくつかの行程をふみながら制作していきます。
その中で“蒸し”という行程があり、染めた布に色を定着させる為に行います。
生地や使用した染料によるのですが、100度くらいの蒸器に約1時間入れます。
この行程を行うと、色によってきれいに発色したりしなかったりするんです…。
染色後に行うので、染色している段階で見えている色と蒸した後の仕上がった色が違ってきます。
私がよく使う黒色は、特にムラになりやすかったり、蒸した後の色の変化が大きかったりして中々難しく、
日々経験を積み重ねながら覚えていっています。

モチーフにされている自然と同じように、コントロールしきれない部分を想像して表現に落とし込むのは、
他の人には真似のできない、まさに職人技だなと感じました。
古屋さんが作品を作られる中でのポリシーやマイルールはありますか。

古屋さん:
作品では、人間に身近な花を媒体に自然の畏怖や美しさをテーマに描いているので、あまり可愛いイメージにならないように気をつけています。原色は使わず、どの色にも黒を少し混ぜて、彩度を落とすようにしています。
同じ構図、違う配色で作品を作ることもあり、使う色によって、かなりイメージが違うものになってきます。
素材は綿と比べると絹を使うことで色がより一層深くなるので、基本的には絹を使っています。
布の光沢感、織られた糸の太さや、生地の柔らかさ、揺れたときの動きかたなどでも、色の見え方が変わってくるので、
私なりに色々実験して、その作品に一番合うものを選ぶようにしています。

古屋さんにとって一言でいうと「色」ってどのような存在なのでしょうか?

古屋さん:
色を染める、と書いて染色。染色作家という職業に色という字が入ってきちゃってますからね。
中々想像通りにはいきませんが、日々向かい合い続ける対象であり、切っても切り離せない存在です。

実際のお仕事を通じて、古屋さんの「色」との向き合い方を紹介してもらいました。

古屋さん:
– 八重の桜 – h230/w8000 mm 絹布 臈纈(ろうけつ)染め
元々は真っ白な絹の布に黒を染めた、引き込まれるような黒の作品です。
真っ黒に染めるため、3〜4回刷毛で重ねて染めています。単純に黒といっても何種類かの黒を使い分けています。
1回目は黄色みの黒、2回目は青味の黒、3回目は赤みの黒。深い黒を出すため、違う色味の黒を重ねています。
この作品はサイズが8mもあったので、染めるのが大変でした。
古屋さん:
(左)- syobu. – h900/w900/d40 mm 絹布 臈纈染め
(右)- tubaki. – h900/w900/d40 mm 絹布 臈纈染め

粉状の染料を水などに溶かして使うと独特のにじみなどの表情が生まれるので、それも積極的に活かして制作しています。例えば緑は、青色と黄色を混ぜて表現しますが、緑の染料を水で濡らした生地に置くと、じわっと滲んでいきます。
そのときに緑の中にある青い染料が流れるスピードが黄色より早くて、内側が緑、滲んだ淵がほんのり青色になります。

何種類もの黒を使い分ける技術や、染料ならではの特徴を活かすセンスに裏打ちされた表現が、古屋さんの作品の深みや奥行きにつながっているのかなと思いました。
普段の生活の中でも色についてこだわっていたり、意識していることはありますか?

古屋さん:
アトリエ自体はそんなに広くないのですが、空間の主役が窓からの絵になるように、奇抜な色や目立つものは置かないようにしています。春には花が咲いて、冬には雪が降る。晴れの日は木の陰が落ちてきて、雨の日は水々しく、日々違った表情を魅せてくれます。いつも窓を開けておくことで、季節や変化、時間を感じることができるので、それを見ながら制作し、アイデアを貰うこともあります。

古屋さん独自の感覚や色使いは、やはり自然からの影響が大きいのですね。
季節や変化、時間などを常に意識しながら生きているからこそ、臈纈染めの微妙なニュアンスまでもコントロールして作品を作れているのかなと思いました。
できるだけ細かなニュアンスにまで応えられるように、ROOMBLOOMでも189色のカラーをご準備しているのですが、アトリエの中で塗り替えてみたい場所はありますか?

古屋さん:
砂壁の壁と天井を塗り替えてみたいですね。昔の壁なので色がだいぶ渋く、日当りがあまりよくないこともあって、日中も部屋が暗めです。なので今の壁の色より少し明るめな色で、制作の邪魔にならない主張しない色がいいですね。
いい色合いが多くって悩みましたが、RB-25YR05 時雨が希望しているイメージに合いそうで良いと思いました。

日々自然に囲まれたアトリエで制作し、窓から見える景色の微妙な変化を無意識で感じとっているからこそ、深みや奥行きを感じられる作品が作れるのだなと感じました。古屋さんのように、「黄色っぽい黒」「青っぽい黒」などを意識して使い分けるのは、並大抵のことではないと思います。まずは難しく考えずに、何気なく見ていた空の色や道端の花など、色名では明確に言い表せない美しさに目を向けてみると、気づかぬ内に色の感じ方や捉え方がもっと豊かになり、微妙な色の差にも気づけるようになるかもしれません。

テキスタイルアーティスト / 染色作家

古屋絵菜さん
Ena Furuya

山梨県甲州市生まれ、テキスタイルアーティスト 染色作家。
主に臈纈染め(ろうけつ)を用い、花をモチーフとした作品を制作。2013年NHK大河ドラマ『八重の桜』 5月オープニングタイトルバックに作品が起用され、現在は日本、上海を中心に活動中。
2009年武蔵野美術大学 工芸工業デザイン科 テキスタイル専攻 卒業
2011年武蔵野美術大学 大学院 工芸工業デザイン科 修了
2014年上海大学国際交流学院卒業
2016年 やまなし大使就任
http://enafuruya.com/

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